養老孟司著「一番大事なこと」集英社新書、03年11月。
著者は基督教流の、人と自然を厳格に分けて差別する思想を批判。
現代の環境原理主義(自然保護)の背後にはこの二元論がある。
一方で徹底した人工の生活空間の都市を建設しつつ、
他方で手つかずの自然を残すやり方に、著者は異議。
日本の原生林の照葉樹林では地表が暗くなるので、
下草の生育は不可能だけど、人により適度に手入れされた
里山では、下草が生育し、多くの生物が生活することが
出来て、生態系が豊かになる、と著者は里山を評価する。
「手入れ」の思想では、自然と人工との境界が緩やかになる。
▼著者によれば、自然のSystemは、近代の要素還元主義の科学
研究では分らぬもの。
Systemではそれぞれの要素に多義性がある。
単純に有害な要素は無い。
ある面で有害になり得る要素でも、別の面では有益である。
だから、特定の遺伝子を病原と決めつけ、
それを除去する形の遺伝子治療とか、
遺伝子組換なんて乱暴なことをしてはならず。
著者によれば、遺伝子は情報であり、細胞はSystemである。
遺伝子はSytemの一部である。Dawkinsの遺伝子利己
主義論は細胞やSystemを無視したものだと著者は批判。
▼喫煙者の著者は、煙草への攻撃は石油業界の策略と論ず。
肺癌の原因としては、煙草よりも石油燃料使用による大気汚染
(自動車排気等)の方が大きいけど、自動車を廃止するわけに
は行かぬので、煙草に責任を押しつけ、嫌煙運動を流行らせる、と。
日本では、自動車に負けて破綻した旧国鉄の借金の穴埋めに、
煙草税の一部を投入するなんて変な政策が実施される。
電気自動車が普及して自動車排気の問題が解消すれば、
煙草が復権するのか?
締めくくりとして、環境問題を解決するための養老氏流の提案。
徳川時代の、江戸への参勤交代と逆の参勤交代をせよ、
都会人は一年のうちの三か月、田舎で生活をせよ、と。
抜け駆けを防ぐために、政府が全社会人にそれを強制せよ、と。
▼養老孟司著「読まない力」PHP新書、09年3月。
著者は、欧米が主導する、地球温暖化問題に欺瞞を読み取る。
Goer米元副大統領の温暖化本を「デマ」と切捨て。
同書が、禁煙論を展開するのが、喫煙派の著者には不愉快。
禁煙運動を政治に取入れた本家本元はあのHitlerだ、禁煙を
説く政治家を信じるな、と。
著者は、自然を否定、抑圧し、人類社会、都市を徹底して
秩序化する既存文明の「脳化」傾向を批判、その根拠に、
熱力学第二法則を持ち出す。
それは化学、物理学に無知な一般国民には馴染みが無い知識、
説得としては厳しい。
著者は、地球環境対策として、二酸化炭素CO2排出量を、数値
目標を決めて削減するよりも、石油生産量を、年1%で良いから
削減する方が良い、と提案。
日本は既にenergy消費効率が高く、さらにCO2排出量を減ら
すには、莫大な経費がかかるし、日本よりも遥かに排出量
が多い国がある中、日本が削減実現したにしても、その貢献
が人類全体に占める割合は高が知れたもの。
温暖化問題は、欧米人の差別意識の反映だと著者は憶測。
日本を含む非欧米人、国際社会の二流市民は、自由に石油
を消費するな、が彼らの本音だ、と。
奴らは、自分たちだけが石油を自由に消費して、地球環境
がどうなるかに関心が乏しい。
もし本気で地球環境を心配するなら、石油生産制限を国際
取り決めして、違反国に軍事制裁課す。